課題
日本の法人向け人材サービスは信頼で成り立つビジネスであり、その信頼は既存大手に集まります。人事の意思決定者はまず名の知れた企業を思い浮かべるため、新しい参入者がブランド認知を得るのは容易ではありません。
このキャンペーンには、互いに結びついた2つの課題がありました。
- 市場は新しい名前に懐疑的であること。人材パートナーを選ぶ経営層は、まず実績と評判に手を伸ばします。新しいサービスは、機能を語る前に信頼性を伝えなければなりません。
- メッセージがまったく異なる媒体で成立する必要があったこと。ひとつのアイデアが、25秒のタクシー画面、10秒未満のSNS用カット、そしてテキスト量の多い法人向けランディングページを支える必要がありました。それぞれ視聴者の集中時間も期待値も異なります。
全体を通じた課題は、既存大手と並んでも見劣りしない信頼感のあるブランドの存在感と、数秒で伝わる鋭いメッセージを、Sollective Bizに与えることでした。
コンセプト
この企画は、ひとつの気づきから始まりました。いまどの企業も「AIは何を代替できるのか」を問うています。私たちはその問いを反転させました。AIに代替できない唯一のものは人の手触りであり、信頼できるプロが背中を預かってくれているという安心感である、と。
ツールは進化し続けます。しかし、そのツールを実際のビジネス成果に結びつけられる人の判断力は変わりません。これがキャンペーンの背骨となり、結果としてSollective Bizに稀有なポジションをもたらしました。AIが市場を作り変えている事実から目を逸らすのではなく、正面から向き合う人材企業という立ち位置です。
コンセプト開発
制作に入る前に、物語を定める
まずは幅広く、10〜15本のコンセプトをそれぞれストーリーボードまで起こし、そこから経営層にもっとも強く響くと考えた3本に絞り込みました。
この絞り込みには、実際の制作上の制約が影響しています。AIによる動画生成には限界があり、文字を正確に描画するのが苦手で、1シーンに3人以上が登場すると視覚的な一貫性が崩れてしまいます。私たちはその制約と戦うのではなく、制約を前提に設計し、パイプラインが安定して届けられる領域を活かせるコンセプトを選びました。
最終的に2本を制作まで進め、1本を公開しました。オフィスで2人の同僚が課題を解いていくという内容です。セットは最小限、登場人物は2人と明確で、ターゲットの日常にもっとも近いシチュエーションでした。
広告制作
AIで生成し、人の手で仕上げるワークフロー
この広告はAIで生成しながら、人の手で仕上げています。従来とは異なる新しい制作パイプラインです。作業はコンセプト開発、キャラクターのキャスティング、そしてWeavy上での映像制作にまたがり、シーンの生成、カメラスチルの抽出、それを広告として成立するカットへと仕上げる工程を含みました。
生成された素材はあくまで出発点であり、完成品ではありません。作り手の技量が生きたのは、仕上げの工程でした。
- 放送品質にまで各カットを引き上げる、手作業での編集とVFXコンポジット。
- 各キャラクターのトーンと話し方に合わせて調整した、ナレーション音声の生成。
結果として、AIネイティブなパイプラインから放送品質の広告が生まれました。従来のプロダクト業務とはまったく異なる筋肉を使う仕事であり、少人数のチームが現代のツールをどこまで押し広げられるかを示す部分でもありました。
LPのリニューアル
分かりやすさだけでなく、信頼感のために設計する
プロジェクトの後半は、Framerで構築した法人向けランディングページの全面リニューアルでした。旧デザインには明確なアイデンティティがなかったため、このリニューアルをSollectiveのビジネスコミュニケーション全体に通じる、より強固なブランドシステムを定義する機会と捉えました。タクシー広告で制作したアセットを土台に、オリジナルのイラストスタイルを加えています。
設計上の中心的な課題は「信頼」でした。このページは法人向けサービスの仕組みを説明する性質上、どうしてもテキストとプロセスの説明が多くなります。その内容を消化しやすく、そして何より信頼できるものに感じてもらう必要がありました。買い手が既存大手を第一想起とする市場では、ページは機能を語る前に信頼性を伝えなければなりません。
キャンペーンの成果
キャンペーンは6月に、タクシー車内ビジョン、YouTube、SNSで展開を開始し、リニューアルしたランディングページも同時に公開されました。
- 各配信面を合わせて、広告の再生回数は74万2,000回以上。
- 25秒、15秒、10秒、5秒の4パターンを制作し、あらゆる配信面にメッセージを合わせられるようにしました。
- ばらつきのあったビジュアルに代わり、法人向けサイト全体を貫く本格的なブランドシステムが整いました。
学び
- ポジショニング次第で、脅威は資産に変わる。 AIを名指しで取り上げ、そのうえで人の判断力の価値を語ったことで、保守的な市場において新しいブランドが自信に満ちた独自の立ち位置を得られました。
- 制約は、より良いコンセプトを生む。 AI動画の限界に逆らうのではなく、それを前提に設計したことで、間口を広げるよりも鋭く焦点の定まった広告になりました。
- AIは制作を加速するが、仕上げるのは依然として職人技である。 生成された映像は土台にすぎません。品質を生んだのは、編集、コンポジット、そして音声の作り込みでした。
- 振れ幅こそが一本の筋である。 ブランド、映像、そしてAIネイティブな制作パイプラインをひとつのプロジェクトで扱いました。プロダクトUIの仕事とは異なる領域ですが、信頼を築くという同じ目的で貫かれています。
